企業は「官」に裏切られている

東京新聞より
http://www.asahi.com/national/update/0530/TKY200705300222.html

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JFE11億円所得隠し 受注工作費、経費に偽装
2007年05月30日15時03分

 JFEグループの「JFEエンジニアリング」(東京都千代田区)など数社が東京国税局の税務調査を受け、06年3月期までの計7年間で計約11億円の所得隠しを指摘されたことが分かった。談合で落札した工事をめぐり、受注をあきらめた業者に支払う「降り賃」や受注工作費などを経費に見せかけた分が交際費と認定されるなどしたとみられる。グループ全体の追徴税額は、重加算税を含めて約9億円になるという。

 JFEエンジニアリングが9億円前後の所得隠しを指摘されたほか、JFEスチール(同)も設備投資をめぐって約2億円の所得隠しを指摘されたとみられる。

 関係者によると、JFEエンジニアリングはし尿処理施設や水門など各地の公共工事などで談合。「降り賃」を外注費に見せかけて支払っていたほか、受注工作費や関係者への謝礼なども同様に経費に見せかけていたという。国税局は外注工事の実態がなかったことなどから、「交際費」と認定した模様だ。

 JFEエンジニアリングをめぐっては、各地の自治体が発注したし尿処理施設の入札をめぐる談合事件でも、昨年5月、大阪地検特捜部に社員が独占禁止法違反容疑で逮捕されるなどしている。

 持ち株会社のJFEホールディングスは「税務調査を受けたのは事実。受領した更正通知書を精査の上、適正・誠実に対応します」とコメントした。

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 はっきり言って、東京国税局という組織の悪質さに腹が立つ。
 これまで「経費」として認めてきた項目を、あるとき突然「交際費だから課税対象だよ、隠してんじゃねぇよ」といちゃもん付けられたようなものである。まるでヤクザみたいだ。

 問題となったのは「降り賃」。これは談合体制のなかでは比較的よる行われるものだが、単に「受注させていただきました。ありがとうございました」というようなものではない。もっと実質的なものである。

 そもそも、入札には金がかかる。高度で複雑な技術が必要なプラントでは、通常の公共工事よりもはるかに、設計や見積もりに多額の経費がかかるのである。数百億円のプラント工事では、入札費用には軽く億円単位の費用がかかってしまう。だが受注できなければその費用は全くの無駄となるのだ。

 つまり「降り賃」には、受注した企業が失注した企業の入札費用の一部を補填するという相互扶助的な意味合いも持つ。その意味では談合組織はいわば「互助会」なのである。

 談合はとかく非難されるが、談合があったからこそ、公共事業がマトモに実施されてきたという面を忘れてはいけない。談合してても公共工事は利益率が低く、企業がそんなに儲かるものではない。談合が排除されれば、すぐに赤字に転落してしまうのが公共工事なのである。
「談合しなくなったらコストが下がった」という論調があるが、実は企業が赤字受注しているだけなのだ。事実、最近ではコストを度外視した安値受注が横行しており、むしろそのほうが問題となっている。公共工事の品質低下がとても懸念されている。

 談合が無くなれば、いずれ企業経営は続かなくなり、公共工事を受託できる会社はいなくなってしまう。ごく少数の企業に限定された公場合、企業は低価格で受注しなくてもすむようになる。むしろそのとき困るのは公共事業体である。

 そして「今後は経費として認められませんよ」という通告も無しに、いきなり「所得隠し」呼ばわりされるのだ。企業はもはや「官に裏切られている」のだと考え直したほうがよい。
 こんなことが続くようでは、公共工事は「ハイリスク・ローリターン」の仕事となってしまう。もはや安定的に仕事を供給できなくなった公共工事に依存していては企業は立ち行かない。

 公共工事に手を出してはいけない。たとえそれで官が困ろうとも。