税金のあり方に関する一考察-科学的税体系の構築について

税体系のあり方には工学的知見が必要だと思う

「税金の無駄を省く」と政治家が言うとき、無駄と無駄でない税金の使い道の基準を示すことはない。基準を示すと、それに従わざるをえなくなるからだ。

「無駄な税金の基準」を決めてしまうと、裁量が効かなくなってしまう。それは裁量権の行使によって地位を確保してきた政治家と官僚にとって、自らを否定することにつながっていくからだ。

だが、既に900兆円に迫る負債を抱えながら、セーフティネットワークが後退し、高齢化は進みながらも若者の就業機会が減り、社会が活力を失っていくなかで、適正な税金の使途を誰もがチェックできる体制の構築は絶対的に不可欠である。

公正な基準を持つことで、国や自治体の税金の使い方を国民がコントロールしていく体制の構築を考えていくべきだ。

それは、税金の体系化であり、標準化である。

もし、あるプロジェクトについてその支出が必要かそうでないか、あるいはその財政規模が適正であるかないか、プライオリティが十分にあるものであるかどうかが、第3者にもきちんと説明できないものであれば、それは財政出動する資格を持たないプロジェクトである。国家負担ではなく、受益者負担で進められなければならない。

では如何に説明されるべきか。

「この政策は必要だ」ではダメである。あまりに情緒的過ぎるので認められない。
「なぜ必要か」まで説明されてもダメだ。必要な理由などいくらでもでっち上げられるからだ。それに加えて「なぜ今年の予算でなければならないか」そして「予算規模が適正であるというエビデンスは何か」ということまで語られなければならない。

「なぜ必要か」の理由についてはそれが合理的であり効率的であるかないかが問われなければならない。しかもそれは他の個別政策の予算との比較級で語られなければならない。
また、「なぜ今年の予算でなければならないか」という説明についても、今度はプライオリティに関して他の予算と比べて示されなければならない。
 それは省庁単位ではなく、個別の政策単位での評価が必要となる。

 これは「ベンチマーキング」という考え方である。予算の必要性をベンチマーク化することで、順位をつけることが出きる。
 また必要性が確認された時点で、さらにその予算執行時期の順位をつけていくことができるようになる。
今後の税金のあり方の研究の方向性は、ベンチマーキングを基本的な考え方として、その具体的な手法の開発に力が注がれるべきだ。

これによって、ようやく、予算の必要性が確認される。その次に必要なのは、予算の規模が適正かどうかを判断することだ。これには、ベンチマーキングよりもプロジェクト・マネジメント(PM)の考え方を取り入れるのが効果的だ。PMでは、プロジェクトの目的、期間をまず決め、それを実現するための予算規模を科学的・合理的に算出することになる。当然、最初ではリスクファクターを予想することになる。その上で予算規模が適正に算出される。

 従来のような、積算資料の上に人件費を乗っけたというような乱暴なやり方とはまったく違う。(現実には中央官庁の予算は政策ごとにドンブリ勘定で決められているので、もっと乱暴だ)。

PMの観点からは、合理的に規模を説明できないプロジェクトは、最初からやらないほうがよいということになる。

 これらの手法を導入することで、税金の使途は明確化していくと考えられる。

 情緒的に「これが必要」「これは無駄」といっているばかりの政治家と大マスコミの言葉を鵜呑みにする以外に税金を検証する方法を、それが使われる前に国民が持っていないというのは実に不幸なことである。
 もうひとつ重要なことは、現状では予算が余った場合に国庫に変換するという体制がないこと。従って予算は使いきらなければならない。しかも予算が足りないという自体は重大問題であるので、結果的に大目に予算を取ることで安全を確保する。

 これが無駄の温床となっているのが現実だ。しかし最初から予算の内容が合理的に説明できていれば、予算の変更も合理的に対応できることになる。説明は簡単な話だ。

しかも予算が余った場合でも、それを国庫に変換することで、評価が高まるようにすればよい。そのインセンティブのあり方も研究されていくべきだ。

税金の体系のあり方に合理的・科学的な視点を導入するという考え方が今まであまりになさ過ぎたと思う。