海外金融の非効率化を進める麻生内閣

 6月3日の日経朝刊で政府の輸出金融に関する二つの記事が載った。ひとつは一面トップの「日中、途上国支援で協力」という記事。アジアのインフラ案件を、日中の共同事業体(JV)が受注する際、日本の輸出信用機関(ECA)である国際協力銀行JBIC)と中国のECAである中国輸出入銀行の両行が協調融資するスキームを構築するという。輸出信用の供与だけでなく、海外への輸出金融を中国と一緒にやることで、コストの低減を図り受注機会を拡大させるのが狙いだ。

 通常、これはマッチングと呼ばれるもので、海外のECAとのマッチングはこれまで何回か経験しているが、いずれも欧米のECAとのマッチングであり、中国とのマッチングはいままで実績はない。コストの面からしても、有意義ではあるが、輸出産業会の反対を押し切って、独立機関であったJBICを「日本政策金融公庫」に統合したものの、資源獲得を含めて、その存在意義が年々高まっているのには、苦笑を禁じえない。

 もうひとつの記事は、国際協力機構(JICA)の海外投融資を再開の検討開始が決まったというもの。海外経済協力会議で検討を行い「骨太方針2009}に盛り込む意向だとういう。

 JICAとJBICの業務を整理統合したのが、政策金融改革であった。それまで無償資金協力をJICAが、有償の円借款JBICが担当していたが、円借款業務をJBICから分離し、JICAに統合したのである。これによってODAはJICAが一元的に管轄し、OOFはJBICが一元的に管轄するようになった。

 それが、今回、新たにJICAが海外投融資を行えるよう検討するというのである。これでは「一体、あの政府系金融改革はなんだったのか?」といいたくもなる。そんなことを許すなら、ECA機能を有するJBICを再び独立機関に戻してもらいたい、と輸出産業は考えるだろう。

 この二つの記事の背景にあるのが「ODAの頭打ち」であるという。ODAが増額できないため、外交手法が限られてしまっている。そのため投融資金融を広げようというのだ。

 ODAが頭打ちになっているのには理由がある。これまで日本の円借款の最大の供与相手先は中国であった。しかし中国が途上国から新興国となり、独自で援助を行えるようになってきたことから、中国向けの新規ODAが停止された。これには多分に中国嫌いな偏狭な政治家の影響もあったが、中国の発展は事実なので、大きな問題にはならなかった。これにより、円借款の総額は頭打ちになっている。もうひとつは、対外債務をこれ以上、抱えられないという途上国側の財政問題もある。特に円借款は低利とは言え金利がつく。いたずらに円借款を増やすと、その返還で苦労する。いや、実際すでに苦労しているのである。リスケジュールという手もあるが、今はほとんど認められていない。また審査基準も厳しい。ファイナンスの手法も増えてきたなかで、円借款への需要は減ってきているのだ。

 平たく言うと、「円借款は嫌われている」というとだ。
 日本のODAの特徴は無償資金の比率(これをグラント比率という)が欧米に比べて低いことだ。つまり贈与の比率が小さく、金利を取る借款の比率が大きい。これでは、経済協力の名を借りた「貸金業」という批判をずっと受けてきた。したがって「せめてヒモ付(タイドローン)は制限しろよ?」というのが欧米からの要請であり、そのために日本の円借款はアンタイド比率が大きい。しかし近年「高い技術のもので貢献を」という掛け声のもと、日本の技術を優先するということでタイドにしてしまう方式「本邦技術活用条件(STEP)」が出てきた。これでは日本の高い技術を高いお金で調達しなければならない。ODAのコスト競争で日本は負けつつある。

これを挽回するためにJICAに投融資を再開させようというのだが、投融資に関してはJBICの担当で仕切りができているはずだ。JICAに投融資をやらせるという話は、すでに軸が狂っている。投融資を増やすのならば、JBICを独立させ、投融資を拡大させるのが筋だ。

 これまで日本政府がやってきたことは、海外への輸出、および投融資を制限する方向でしかない。それによって輸出産業がどれだけ迷惑をこうむって来たか。それが転換されるのは喜ばしいが、手法は完全に間違っている。

 「ODAが減っていることで外務省の仕事がなくなっている。投融資を復活させることで外務省の業務拡大、利権拡大を図っている」という見方をする人もいる。おそらくそれも背景の一端であろう。

 外務省管轄のJICAと財務省管轄のJBICが同じ機能を有するのは業務を非効率化させることに他ならない。幼稚園と保育園のようなものである。幼保一元化すらままならないだけでなく、さらに非効率的な事業を増やしてどうする?