「第二の天安門」化するイラン情勢

 イラン総選挙後の改革派の行動が変質している。当初は選挙の不正疑惑に対しての抗議デモであったものが、次第に抗議に対する当局の攻撃で多くの死者がでてしまったことへの抗議、そしてここ数日は「自由」を求める抗議活動へと変化してきている。自由を求める国民のデモと、それを力づくでも封じようとする政府当局。この構図は中国の天安門事件と全く同じだ。イランで第二の天安門事件が起ころうとしている。

 正直、総選挙後にこれほどイランが混乱するとは、全く思っていなかった。改革派は善戦するだろうが、守旧派アハマディネジャドの基盤は強固であり、依然として欧米に対する反感が強く残っていることから、アハマディネジャドの再選はゆるぎないものと思っていた。
 米国のオバマ大統領は、ブッシュ政権とは180度、対イラン政策を転換。このアハマディネジャド大統領との対話路線を進めようとしていた。したがって、守旧派が勝っても米国としては関係改善を進める意向であったと思われる。一部の情報では、既に米国政府と、アハマディネジャド政権とはパイプを構築しており、今後の政策展開としても、アハマディナジャドが再選するほうが流れとしてはスムーズである、という見方もあった。

 しかし、改革派は予想以上の支持を国民から取り付けたようだ。改革派の手ごたえとしては、決戦投票にまで持ち込める、という実感があったのかも知れない。しかし結果は決戦投票を待たず、一回でアハマディネジャド過半数を取得して再選を決めた。

 このこと事態。確かに不自然ではある。事実、不正が全くなかったわけではなく、およそ650件ほどの不正があったことを、選挙管理委員会も認めている。しかし、この程度では投票結果を揺るがすほどの数にはならないとして、改革派の求める再選挙についてはきっぱりと否定していた。

 抗議デモは当初、選挙の不正を明らかにすることと再選挙を求めていた。しかし、この抗議デモが当局と衝突。死者を出してしまったことで、デモの内容は大きく変わっていった。
 実は、抗議デモを攻撃したのはイラン国民ではない、との情報もある。ハメイニ師は、抗議デモを鎮圧するためシリアなどの民兵を金で雇い、この傭兵部隊を抗議デモの鎮圧に向かわせたという。実は警官など治安部隊側でも、デモの鎮圧を嫌がる風潮があり、命令に従わず部隊を離れるものが後を絶たないという。傭兵の採用はそれを補うためだという。

 「当局の鎮圧部隊にペルシャ語を話せないヤツがいる」鎮圧部隊と衝突した、抗議デモの参加者から、話が広まり、イランでは多くの人がこの事実を知っている。

 ハメネイ師は最高指導者である。従来ならば、最高指導者の言葉を重く受け止めるのがイスラムである。しかし、今回は自由を求める国民たちが、ハメネイ師の言葉を公然と無視している。傭兵まで使って弾圧しようとするハメネイ師は、支持を失いかけているようだ。いや、むしろ、自由を求める人にとって、ハメネイ師は「敵」として捕らえれつつあるのかも知れない。

 ムサビ氏も暴力的なデモをやめるよう指示している。また20日のデモは行わないように指示したのもムサビ氏。しかし自由を求める人々の一部は、ムサビ氏の言葉さえ無視し始めている。

 イラン政府は、今日も強硬な姿勢を崩していない。改革派も同様である。このままでは、天安門の時のように多くの犠牲者が生じかねない。