原子力見直し論議が熱い

 今、経済産業省で「総合資源エネルギー調査会基本問題委員会」という審議会が行われている。昨年10月に立ち上げられたこの審議会では、福島第一原発事故をうけて、原子力をどうするか、日本の電力事業をどうするか、そういう基本的なところから、現行のエネルギー基本計画をゼロベースで見直し、新たなエネルギーミックスとその実現のための方策を含む新しい計画についての議論を行っている


 新たなエネルギー基本計画を作るにあたって、その基本的方向性を①需要家の行動様式や社会インフラの変革を視野に、省エネ・節電対策を抜本的に強化、②再生可能エネルギーの開発・利用の最大限の加速化、③天然ガスシフトを始め、環境負荷に最大限配慮しながら化石燃料を有効活用する、④原子力発電への依存度をできる限り低減させるーとしている。政府の「脱原発依存」政策は、ここでは前提条件とされている(原発ゼロを意味するものではないが)。

 既にこれまで9回、開催されているが、1月24日に行われた会合では、原子力が中心テーマとなった。これはこれまで傍聴してきた委員会とはかなり異なる様相を呈していた。議論が極めて活発なのである。これまでの政府の審議会では、見られなかった、委員同士が直接、議論を交わすということも行われた。これは三村委員長が言うとおり「初めての試み」であったようだ。

 今現在、原子力について、政府の審議会で議論を自由に交わすことが本当にできるのか?と思いつつ、傍聴したが、意外にも原子力批判の声は大きかった。

 まず最初の批判は安全面について。低線量放射線を長期に浴び続ける事について、健康への影響は科学的には評価が出来ていない。そして廃棄物についても放射線が長期に亘ってもれない、ということは考えられないことが指摘された(伴委員)
 また安全に関して規制当局が当事者能力がなく、事業者に丸投げであったということ、電力需給はマネジメント可能だが、もう一度同じことが起ったら日本が終わってしまうのではないかという「リアリティ」を見つめることが必要だ(飯田委員)という問いかけもあった。
 
 コストの面では事業の費用はその社会的コストを含め、利益を得る事業者が追うことが原則であり、バックエンドや事故時の費用は過小評価されている。(要するに原子力事業者がコストを社会にツケ回して利益を受けている、という批判)(河野委員)
 事故補償、賠償しきれないのは、これまで事業者が負担してこなかったから。“共済”という形で事故が起らなければ拠出資金が一定程度戻ってくる形にすれば、資金は集まるはず。事故の頻度が低いなら事業者の負担にはならないはず。そういう手法を導入する気はないのか?(松村委員)

 といった批判が相次ぎ提出される。そして、この松村委員の疑問に対して、電力側代表のような形となっている豊田委員はこう返す。「原子力国益だというのだから、事故の責任を全て事業者に負わせるのは無理がある。米英仏中ロ韓、いずれも事業者の責任は有限だ」-要するに責任を全て事業者が負うという前提が気に入らないのである。

 これには「原子力はエネルギー安全保障の要」という意思も働いている。だからこそ、事業者だけではなく国との責任分担が必要、というわけだ。これに対して河野委員から「エネルギー安全保障は国防と同じと考えているのか?」と問いかけられ豊田委員が「その通り。WTOでも例外的分野として国防は市場メカニズムには任せられないとしている」と返す。
 さらにこれに対して河野委員は「そうであるならば、エネルギー安全保障の部分にどれだけ税金が投入されているかを明確化すべきだ」と再反論。大島委員も「同意。さらに研究開発、立地交付金などの税金投入についても理解されていない部分があるかもしれない。原発にはまだ見えないコスト大きい。コストが掛かりすぎであり、その分を再生可能エネルギーに投入したほうがいい」
 そして「エネルギー安全保障というが、(核燃サイクルが出来ていない現状で)原子力自給率に含める意味はない。むしろ再生可能エネルギーこそがエネルギー安全保障となる」(高橋委員)

 これら以外にも、国際戦略上の観点から、また安全性の問題お、フロントエンドでの被爆者問題など、多くの発言が行われた。中には「原発は国害」と言ってのけた委員も居る。この真剣な討議は、次回、2月1日に開催される。今度は「原発の安全性」がテーマとなる。

 ちなみに総合資源エネルギー調査会基本問題委員会はニコニコ動画でインターネット中継されるそうです。