個室ビデオ店火災事件の不可解

大阪の個室ビデオ店放火事件の続き。

検察は求刑に際して被告のことを

>「ギャンブルで散財するなどしており、動機に同情の余地はなく、反省の態度も見られない」と指摘。「他人の生命を一顧だにしない冷酷で危険極まりない犯行。遺族の処罰感情は厳しく、極刑で臨むしかない」

と強く非難している。しかし被告は本当に冷酷で身勝手なバケモノなのであろうか?

昭和55年に高校を卒業(!俺と同い年!)後飲料メーカーに勤めたが、不況もありわずか4カ月で退社。その後の仕事に関しては不明だが、結婚し、子供も二人いる。

事件当時は生活保護を受けていたらしく、既に別居・離婚していたと思われる。そういう状況で「先生」に出会う。
パチンコや馬券購入で時間つぶした後、心斎橋の占い師である「先生」に占ってもらい、色紙を渡され、2000円支払って家に帰る。食事をしたのち、再び「先生」ところに行き話をして指輪と時計をもらう。次の日夕方に再会。そのまま二人は健康ランドに行き、一泊する。

>弁護人「キャリーバッグを引いてあげたんですか」
 被告「自分は調子乗りの性格なんで、『先生、お持ちしますわ』とお笑い的な感じで、冗談ぽく言うたような気がします。そこから引きだしましたね」

 これ以後「先生」と親密になり、二人は奈良に行く。目的はダイミ茶を飲むこと。お金は「先生」が立て替えた。そこで被告はトリップ状態を体験したと証言している。

> 被告「何かテンションが高くなってる割に涙が止まらないんですよ。号泣っていうか、うれし泣き、言うんですかね。目をつぶるとすばらしい景色が見えてくるんですよ。自分のほしいもんとか見えてくる、不思議な力が出てきました」


その後「先生」は「録音の手伝いをしてほしいと被告とともに難波へ。食事の後、「先生」が個室ビデオ店に泊まろうと言い出す。被告は自分の家に先生を泊めたがったが、「先生」がこれを拒否した。
この間、二人は仕事の話をする。

>被告「『ぼくみたいな人もいるんやなと思って気が晴れますわ』と言うと、『俺もそう思っとったんや、仕事手伝ってくれや。広島とか沖縄に行ったりしたいから、アシストしてくれたらええから2人で頑張っていけへんか』という会話になりました」
弁護人「手伝ってくれといわれたのですか」
被告「強制とかではなしに『してくれたらおもろそうやなあ』と言ってくれました」
弁護人「あなたもついて行こうという気持ちでしたか」
被告「そこまで先のことは分かりませんが、広島や沖縄に行ってみたいという気持ちはありました」


被告の印象はどうも「太鼓持ち」的な印象が強い。
僕と同じような印象を持った人がいた。

刑務所体験作家 本間 龍の日記
ttp://d.hatena.ne.jp/gvstav/20090929/1254209656

>ここから浮かんでくるのは被告が相当な小心者であり、更に人と話しているうちに、意識的なのか無意識なのか、相手に話を合わせてしまう人種だと云うことだ。
 むろん、取り調べのきつさに眠気を覚えていい加減に答えたというのは一般人には分からないだろうが、経験者には理解できる。何人も死んでいるのだから刑事達の締め付けも半端じゃなかったに違いない。そのプレッシャーの凄さは体験した者にしかわからないだろう。
 そういう観点から「無理矢理云わされた」という冤罪事件は数多くある。ただ、この被告の言葉の軽さはちょっと度を超していると思う。「調子こきのところがあるから」放火を認めてしまうという論法は、すくなくとも常人には理解しがたい。


本間氏は「理解しがたい」というが、「調子こきのところがあるから」放火を認めたというのは、被告の迎合的な傾向を自身が自虐的に表現した言葉と思える。

この被告、そもそも自堕落な生活を送っていたことは間違いない。しかし、それは他者を排除・否定するものではなく、自分自身を他者に対して貶めているようだ。セルフイメージが極めて低い男である。したがって、他者を容易に信じ、迎合してしまう。

そういう人間が「なめとんのか!お前しかおらんやろ!認めろや!」と机を叩かれながら責められたのである。

もうひとつ、事件当日は、前日の健康ランドで一睡もしていない(睡眠導入剤がないと寝られないようだ。事実拘置所でも処方されている)ため、ビデオ店ではタバコを咥えながらうたた寝し、気づいたら煙に巻かれていたと証言している。

当初、被告は自分のタバコの不始末による失火の責任を取らされている、と認識していたのだ。それが警官の脅しにより、放火になってしまったと述べているのだ。被告の人物イメージからしても、事実に反して犯罪を認めてしまったことが納得できる。


そしてこの事件でのさらなる疑問。

この「先生」。どいういうわけか、事件後行方がわからない。警察でも所在を確認できていないのである。警察は引き続き、捜索をすると裁判で述べているので、「先生」は死んでない、と警察も考えている。なぜだろう?

火が燃えていたという証言をした店員は、被告が18号室に入った際に「先生」のキャリーバッグを18号室に入れたと証言している。しかし被告にはその記憶はないと証言している。果たしてどっちが正しいのか?

幻覚作用のあるダイミ茶を飲まされいることは、事件とは関係ないのだろうか?

弁護側は最終弁論で9号室の天井が崩落していることを示し、火元は18号室ではなく9号室としている。他に天井崩落がないのであれば、可能性は一番最後まで燃えていたか、一番最初に燃えだしたかのどちらかしかない。果たしてどちらか?

参考

産経新聞 個室ビデオ店放火関連ニュース
http://sankei.jp.msn.com/topics/affairs/10670/afr10670-t.htm

イザ 「個室ビデオ店放火」特集
http://www.iza.ne.jp/news/feature/4546/