100メートルの道のりに思う

自分が生まれ育った町で事件が起こった。

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「刑務所に戻りたかった」=男性刺し、一緒に交番に-警視庁
8月1日18時34分配信 時事通信

 1日午前10時15分ごろ、東京都東村山市栄町の警視庁東村山署久米川駅前交番に、牛刀を持った男が、背中から血を流した男性(75)とともに現れた。男が「わたしが刺した」と話したため、同署は殺人未遂容疑で現行犯逮捕。男性は病院に運ばれ、1カ月のけが。
 逮捕されたのは、住所不定、無職清水良雄容疑者(61)。同署によると、「刑務所に戻りたかった。仕事がなくてむしゃくしゃし、誰でもいいから怒りをぶつけたかった」などと供述しているという。2人に面識はなかったとみられ、詳しい状況を調べている。

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高校の時に何度かデートに使った、あの喫茶店の真ん前で、一人の老人が、刑務所に戻りたい、と、もう一人の老人に切りつけ、その二人が線路をまたいだ交番までおよそ約100mほどの道を、連れだって歩いたのだ。

この道のりは人の往来がとても多い道だ。車の通行量もハンパではない。線路は駅のすぐ脇にあるので、一度遮断機が降りると、なかなかあかない。距離はさほどではないが、二人が連れだって歩いたのは、5分程度かかったかも知れない。

被害者の方は背中からは出血があっただろう。周囲の目もかなり多かっただたろうに、なぜか二人は交番まで連れだって歩いた。現場で110番を頼み、その場で警察が来るのを待つことだってできた。自分は怪我をしているのだ。動かずにその場でいたほうか安全だ。

でもその人は、怪我をしているにも関わらず、交番まで犯人を連れていった。


犯人を身勝手とか、刑務所が甘いとか無責任なことを平気で言う人間が多いが、

「刑務所に戻りたい」

という言葉の背景にどれほどの悲しみが含まれているのか、想像できないのだろうか?

なぜ、切りつけられた老人が、犯人の老人を連れて交番までわざわざ歩いたのか。その気持ちに心を巡らすことができないのだろうか?

簡単に犯人を批判できる人は、まだ人生の苦しみに直面していない人かも知れない。無知なのかも知れない。

この道のりを歩いたともに被害者と加害者が歩いたことを考えた時、
久米川はやはり良い町だ、とフト思った。