絶望的!? 海外水ビジネスへの日本参入

 上下水道事業などの水ビジネスが世界的に注目を集めている。2025年には全世界で100兆円を超える規模となると見られている水ビジネスに対し、日本企業も参入を目指して、協議会を設立するなど、動きが活発化してきた。
 しかし、海外の上下水道事業は、日本のそれを遥かに超える、高度化を成し遂げている。現状のままでは、日本企業が海外の上下水道事業を勝ち取っていけるか?と問われれば、それには絶望的にならざるを得ない。

●必要な事業ノウハウとは何か?

 昨年、産業競争力懇談会(COCN)は「水処理と水資源の有効活用技術-急拡大する世界水ビジネス市場へのアプローチ」の報告書をまとめた。この報告書によれば、世界の水ビジネスの市場は急拡大を続けており、その市場規模は2005年の約60兆円から、2025年には約111兆円の規模となると見ている。ただし、このうち管理運営事業が100兆円、EPC(施設の設計・建設)は10兆円、素材は1兆円となっており、日本企業が得意とする、素材やEPCは全体の1割程度の規模しかない。

 日本の場合、上下水道の事業ノウハウはすべて自治体が保有している。近年は民間委託が進んできているものの、事業全体のノウハウは民間企業には移転されていない。そのため、この巨大な市場の9割を占める管理・運営部門で日本の民間企業はこれまで殆ど実績がない状態が続いている。
 この問題点はすでに広く認知されている。 今年1月、民間企業による「海外水循環システム協議会」が設立された。海外で急速に脚光を浴びるようになった上下水道ビジネスに日本企業が参加していけるよう、技術の高度化と事業ノウハウの蓄積、マーケティングや政策提言などを行っていき、世界におけ日本企業の水ビジネスで競争力強化を図っていくのが目的だ。モデル事業の実施による、運営管理ノウハウの蓄積をその目的のひとつとしている。

 しかし、今後世界で競合するであろう、海外の水ビジネスの受託企業では、ノウハウ獲得というレベルでは追いつかないほど、業務そのものが体系化されており、しかもそれが透明性をもって高度化してきており、このままでは日本企業は全く競争にならないという事態も懸念されてきている。

 今後、日本が海外での水ビジネスを展開していく上で必要なノウハウとは具体的に何をさすことになるのか、その問いが最も重要となる。

●業務の体系化と効率化で大きな差
 豪州の水事業では業務を体系化し、それを効率的に改善するための手法が取り入れられている。その手法によって豪州の水事業はそのクオリティやコストを透明化し、パブリックサービスとしての説明責任を果たしている。
 具体的には、まず業務を体系化するのである。水ビジネスであれば、経営計画を作るとか、実際の設備の維持更新業務をやるとか、料金収受など大きな業務の固まりを分けていく。その中でさらに実際にどういう業務がやられていくかということをWBS(ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー)のような形で細分化していく。
 豪州の水ビジネスではプロセスベンチマーキングという手法を導入しており、Waasという組織は上水事業の業務を、900項目にも細分化する。これが業務体系の標準となり、その業務の一つ一つをそれぞれ評価し、大きな業務の固まりごとにランキングをつけていくのである。要するに各業務を他の事業者と比較し、順位をつけるもの。

 これを実施することで、各企業における業務の弱点が明らかになってくる。それか企業内で明らかとなるというだけでなく、第三者の視点でも明確になる。例えば計画が弱いとか、計画の中のリスク評価が弱いといったことである。ここを重点的に改善していけば、企業としての経営パフォーマンスが上がっていくことになる。
 
 多くの会社の業務のデータベースを活用しているため、ウィークポイントに対するベストプラクティスも取り入れていくことが出来る。しかも、その改善手法を合理的に説明できるというのが大きい。

 水ビジネスのようなパブリックサービスを展開していく上では、サービスの受益者、すなわち市民に対して、その会社がどういうレベルのサービスを、どういうコストでやっているかという説明責任が生じる。コストが適正であるかどうかを評価するには、その組織が、どう効率的に事業をやっているか、その説明責任が事業会社にはある。
 従って、マネジメントの体系を整理し、自分たちの業務が非効率ではないということを説明しなければならない。これを合理的に説明することが出来るという点で、この手法は極めて有効である。

 既にオーストラリアだけでなく、こうした手法の導入は全世界に広がりつつある。米国でも積極的にこうした手法の導入を進めている。さらに、今後水ビジネスの主要な対象となる、アジア地域や中東・アフリカでは、こうした合理的手法を導入した海外企業との競合となっていく。
 自らの業務の効率性、コストの根拠を合理的に説明できる会社と、そうではない会社。相手がどちらを選ぶか?答えは明白である。

 既に事業そのものノウハウ蓄積を果たし、それをさらに高度化する手法を導入している欧米と、今のところ、まずノウハウ獲得を急ごうとしている日本。現状では日本には全く勝ち目はない。しかもこうした合理的な体系化は日本がもっとも不得手とする部分である。
 日本には確かに高度な技術がある。しかし技術だけではもはや世界には通用しなくなっていく。
「日本的経営」という言葉のもと、体系化、透明化を拒んできた日本企業、特に経営陣の、発想の転換が必要なときが迫ってきている。