映画「ジョン・ラーベ」-ドイツで観た方の映画評

ドイツ在住のuedさんが、ドイツで公開まもなく映画「ジョン・ラーベ」を観て、mixiのコミュニティに映画評を投稿してくれました。

南京事件は単なる舞台であり、その舞台の中でのジョン・ラーベの「成長する人道心」を描き出すことが映画の主題となっているようです。

ご本人の了解を得て、映画評の全文を転載いたしました。

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引用開始

 これは中国を舞台にしてはいるが、中国の映画とはいえない。その証拠に、物言う中国人は一人だけ。しかもそれさえも主人公ラーベとの会話ではない。

 注目の箇所は、ラーベの中で成長し変化する人道心で、この変遷の様子を、①ドイツ人同士の交わり、そして②終始ヒールを演じる鳩彦王との対立を通じて描くのが映画の趣旨である。

 最初から勇気を持った人間などいない。むしろ勇気を貫徹しているのは女教師の方であり、医師や外交官と同様、この一介の商人のふるまいは実に状況対応的である。
 しかしその「状況性」の中で彼は変化せざるを得なかった。海外駐留の間に第一次大戦、ナチの政権奪取を経験する中で、彼は母国であるナチス・ドイツに素朴な信頼をおくようになり、ナチに入党。目の前で起きている事柄にだけ対処していくような人物であった。しかし彼のおかれた状況は、小市民であった彼の対応能力を常に最大限に発揮することを要求する形で展開する。

 従って、ラーベはいわゆる「ヒーロー」的役回りではない。ヒーローであれば、状況性を超える形で、あるいは状況性をひっくり返す形でふるまうのであろうが、そういうタイプではない。むしろこの映画は、超越的なヒーローの介在を許さずに、しかし「責任感」というただこの一事のためだけにヒーロー的勇気を発揮するようになっていく一小市民のストーリーが展開される。(前半の爆撃シーンでナチの旗の下に彼が工場の人たちをかくまわせるというスペクタクルなシーンがあるが、ストーリー上重要ではない。これは後から追加されたエピソードではないかと思う)

 実は、そういう状況下で突出的にヒーロー的な役割を果たすのは日本人少佐だったりするのが興味深い。かのドイツ人女性教師と並んで、この作品は一人の日本人の良心を、しかも矛盾を抱えた良心を描いている。

 映画の中で不満なのは、明らかにヨーロッパ中心的な視点で書かれており、先にも書いたように中国人の心理描写は(例の少女を含めて)ほぼ皆無。南京において中国人はただ受動的にしか描かれざるを得なかったのか、というのが少し気になる。また鳩彦王演じる香川は名演だと思うが、最後の場面であそこまで状況的に対応できる理知を持ち合わせているのなら、そもそもそれ以前の非人道的なふるまいはなかったような気がする。

 映画は全体として抑制された仕上がりで、日本人として居心地の悪さを感じさせるよりは、むしろ主人公の心理描写に集中できる。「ラスト・サムライ」の時などは私が日本人とわかったら「あの土下座シーンはどう思うか」など質問攻めだったが、今回はそういうことはなさそう。いわゆる「歴史観の相違」が問題になる作品でも、「政治的な」作品でもない。事実そういう売り込みはドイツではなされていない。

 シンドラーのリストのように10年に一度の名作だとは思わないが、今年一番の名作にノミネートされることはなんの不思議もない作品。今回の合作に日本が脚本段階から本格参加していたら、もう一段磨きがかけられたのではないか、という気もするので星四つ。


引用ここまで
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 ぎんがみがこの映画を見たいと思った理由のひとつは、これがハリウッド映画でも、日本映画でも、中国映画でもなく、ドイツ映画だということにあります。

 ハリウッドのドハデな映画に飽き飽きし、日本の自家撞着的な映画にも興味をそそられずに居たのですが、久しぶりにドイツ映画の重厚な人間ドラマを見れるんです。しかもそれが、南京事件という、極限状態を舞台にした戦争の中での人間の心理描写を描き、日本の名優がそれを引き立てていく。

近年、これほど関心をそそられる映画も珍しいことです。是非、この名作の日本での上映を実現したいと思います。


ジョン・ラーベ」の日本公開を求める署名を集めています(メールアドレスをお持ちの方ならどなたでも署名できます。携帯電話の方は「署名TV」で検索してみて下さい)。
http://www.shomei.tv/project-897.html


mixiコミュニティ
映画「ジョン・ラーベ」が観たい
http://mixi.jp/view_community.pl?id=4172440

映画「John Rabe」公式サイト(ドイツ語)
http://www.johnrabe.de/

予告編
http://www.youtube.com/watch?v=bikBAnL7vJE
↑これだけでも本編を見たくなります。