どうやら世界は変わってしまったようだ

新年号を編集していて改めて思ったのだが、どうやら世界は変わってしまったようだ。

 リーマンショック以後の世界経済の混乱は、深い眠りから突然、起こされたときの意識の混乱に似ている、と思う。それまでも、サブプライムローン問題が経済に影響してくるという予想はあったものの、実はこれほど大きい影響が、一気に表面化してくるとは誰も思っていなかった。

 リーマンショック以後もしばらくの間、経済評論家、学者、ジャーナリストのいずれも、この問題をうまく説明できていなかった。正直、何が起こっているのか、よくわからなかったのである。

 投機的資金が一気にいなくなったのは、バブルの崩壊によるものだが、なぜバブルが崩壊したのか?きっかけは米国政府の対処が遅れたためだった。リーマンをつぶしてしまったことは、それ自体の直接的影響はさほど大きくはなかったが、すでに引き際を探っていた投機的資金、特にヘッジファンドなどの資金ソースに理由を与えてしまった。米国政府はそれを読めなかったのだと思う。

 日本では、第2次補正予算強行採決で決まってしまった。だれも評価しない、定額給付金を織り込んだまま。しかも、今後政府は2011年の消費税率アップも盛り込んでいくという。

 定額給付金の支給が消費税率アップの口実に過ぎないことなど、誰の目にも明らかだ。英国は逆に消費税率を下げることをいち早く実施した。なぜ、日本では逆に景気の出口が見えない今、この状況で消費税率アップを言うのか?そんな話を前に定額給付金を、莫大な事務費をかけてバラまいたところで、何の意味があるのか?

 「経営者は現状から5年遅れ、官僚は10年遅れ、政治は20年遅れ」という言葉を年末に某上場企業トップの口から聞いたが、まさにそのような状況が現れている。どうしてこんなに政治というのは鈍いのだろうか?

 しかし麻生太郎にも多少、同情せねばならない。

 今の自民党では、首相のできる仕事は限られている。本来なら、こういう時期には所得減税や、思い切って一定期間の消費税の停止を表明すると、一気に消費活動が上がるのだが、それは自民党ではできないのである。自民税調を否定することになるからだ。消費税を導入し、税率を引き上げ、その一方で事業税を減税し、高額所得者の税率を引き下げてきた自民党が、末端の国民のための所得減税や消費減税を打ち出すことは、自民党そのものを否定することになる。

 だが本来、政治は政党のためにあるものではない。国民のためにあるものだ。要するに自民党は既に、政党としての本分を失いつつある。これまでは経済が安定していたため、どんなデタラメな政策でも国民の側に受け入れ余地があった。しかし、経済が不安定化すれば国民には受け入れ余地がなくなる。要するに自民党は国民に甘えてきたってわけだ。それがもう甘えられなくなった。支持率の低下はその表れだ。

 今までなら、通用していた政策は、もう通用しない。世界が変わったからだ。投機的資金が昨年夏までのように、大暴れすることはできなくなった。まあ、今年後半以後はまたやつらが動き出すだろうというのが大方の見方だが、サブプライムのようなハイリスクの金融商品で儲けるのは難しい世界となるだろう。

 その意味で、新自由主義という幻想は金融バブルの崩壊とともに終焉を迎えたといえる。福祉や医療、教育など、国の根幹となる政策にまで市場原理、競争原理を持ち込もうという実験は失敗に終わった。その現状に的確な対処ができない自由民主党という政党は、その存在意義が失われている。

 政治も遅いが、大企業の経営も実に遅い。トヨタが営業赤字となったのは、サブプライムだけが問題ではない。これも年末に某企業のトップから聞いた話だが「1年前から“トヨタはおかしい”という話が出ていた」。具体的な内容については聞いていないが、トヨタうしの話はずいぶん以前からあったようだ。

 これは企業コンサルタントから聞いた話だが、トヨタは以前、現場の力が他の会社に比べて大きかったという。トヨタ流「カイゼン」は現場の力そのものである。現場で働いている人間が自発的に進めてきた「カイゼン」がトヨタという会社を作ったともいえる。しかし、その力が失われている、とコンサルタントは言っていた。これもほぼ1年前だ。
 ネットでトヨタ凋落の理由を探ってみたところ、気になる記述が見つかった。中国で「もっと増産するから、お宅も増産投資してくれ」とトヨタから部品メーカーに話があったらしいが、部品メーカーはそれに対応しなかったという話がある。既に中国市場でのトヨタ車の販売は下ブレしていたからであるという。つまり、市場動向が経営トップに伝わっていないというのだ。これも昨年の最初のころの話だ。
 
 これまで日本経済はトヨタをはじめとする自動車メーカーが牽引してきたところは大きい。「ものづくり」を日本の根幹とする経済産業政策は、自動車に負うところが大きかったのである。しかし、その自動車が今、斜陽産業化しつつあるのだ。国内の自動車販売台数は右肩下がり。海外では主力の北米が経済混乱で低迷し、新興市場は現地の自動車メーカーが台頭している。日本の自動車はメーカーが今、どこに対してどんな車を売ればよいのか?答えが出せていない。

 ちなみに国内市場の低迷の責任は、自動車メーカー自身にもある。雇用の安定化にまったく貢献してこなかったため、格差を拡大し、自動車が買えない人々を大量に生み出し、しかもこの間、車種の大型化、高級化を進めてきた。これでは車を売る気があるのか?といいたくもなる。結果的に車の需要は減退した。

 トヨタだけでなく、ホンダも同様の大企業病に犯されているように見える。今後、インドのタタ自動車や、中国の優良企業などの低価格自動車メーカーが日本進出を果たしたら、日本のトヨタ、ホンダ、ニッサンは米国のビッグ3と同じ運命をたどることになるかもしれない。現状の正確な把握と対応のスピードができなければ、必ずそうなるだろう。世界は変わった。今まで同じではダメだ。