もうね奇跡かと思った

 昨夜は月食だった。秋葉原あたりを歩きながら、皆既月食みることが出来た。赤い月は不思議な魅力、というか殆ど魔力のようなものを持って、見る人に迫ってくる感じだ。もっとも、都心ではビルの隙間から月を見る形となる。だからビルの陰に、月食を見る人々が溜まるようになる。普段、ただ行き交うだけのビル陰に、人が溜まり、カメラやケータイを上に向け、ビルの隙間から赤い月を見上げる。何と言うか稲垣足穂一千一秒物語の世界のようだった。
 だけど、僕にとっての奇跡は、実はその前日だった。
 前日なのでやはり満月。そこに少々、雲が被ってて、朧月となっていた。またその雲がうろこ雲で、月へのかかり具合が良くて、まるで月が波で煌めいているような、それは綺麗な月だった。
 その綺麗な月をバックに、突然、鳥の一団が横切った。
 鳥たちはカギと円弧の二つのラインを組んで、月を横切っていく。暗い空に、街の光を受けて銀色に光る鳥たちの優雅な飛行は、本当に奇跡のようだったよ。