盲導犬の胆力

先週金曜日、横浜での取材の帰りの東海道線の車中、盲導犬に出合った。視覚障害の女性の補助犬だ。

少し離れたところから何気に彼(?だと思う)を見てみると、なんと左の前足が、隣に立ってたサラリーマンの靴の甲の上に乗っている。つまり、この人、こともあろうに犬に足を踏んづけられていたわけだ。
通常なら適当にあしらって、犬に足をどかせるところだろうが、このサラリーマン氏、ちょっと困った顔をして、彼を見下ろしていたものの、じっとそのまま耐えている。
 彼のほうは、ご主人の女性のサポートに神経を集中しているのか、人の足を踏んづけているのに気が付かない様子。どけようともしない。一瞬、僕の方に視線をよこしたが「何か?」と落ち着いたご様子。

やがて駅についたところで、盲導犬くん女性ご主人が降車、続いてサラリーマン氏も降車、ようやく犬の足から開放された。

何一つ身じろぎもせず、黙って犬に足を踏ませていたサラリーマン氏の心優しさと、盲導犬の堂々たる落ち着いた態度に、深く感動した。


…実は大分以前だが、千葉での取材の帰り、内房線に乗り、座ってうたた寝こいていた私は、とある駅に停車中、湿った、生暖かいものが膝をつつくのを感じた。目を開けると、眼前に犬の顔が。「え!?」一瞬、驚いたが、すぐに盲導犬と理解した。その次の瞬間、「席、ゆずれよ」とばかりにもう一度、私のヒザをつつき、「あっちいけ」とばかりに顔を横に振られた。

かなり頭が混乱し、とっさに何かを判断することもできず、素直に犬の支持に従って席を譲った。ご主人は「おい、本当に席空いているのか?」と犬に聞いていたが、犬が答えるはずもない。どうやらこの犬、今までにもご主人のために人をどかしたことがあるらしい。

犬から種の壁を越えた命令を受けたのも初体験で衝撃だったが、混乱していたとはいえ、生命樹の下位の存在からの指示に素直に従ってしまったことで、自尊心がやや崩れそうになり、恨めしそうな顔で、かの盲導犬くんを見つめていた私を、彼は「何か?」という目で見返してきた。もう、僕には何にもできることはなかった。

そんなご主人思いの、肝の据わった盲導犬が今、全国で1000頭近くいます。しかし、希望者はその約8倍にも達しているということです。