いたずらっぽい眼

「あたし、結婚するんだよ」
エミはそう言って、僕の顔を覗き込んだ。
数年前と変わらない、いたずらっぽい眼で僕を見つめる。

その眼差しの意味を僕は瞬時に理解した。

(あなたが結婚するって言ったとき、動揺した。だってわたしは、あなたといつか一緒になれると、なんとなく思ってたから。だから、今回は仕返し。どう?動揺したでしょ)

もちろん、僕は動揺したさ。
君といつか一緒になれると思ってたのは僕だって同じ。
でも、あのころ、君は僕のそばにいなかった。
だから、しょうがないよ。

「そ、そうなんだ。おめでとう」

僕の同様を確認したエミは、満足そうだった。
そして、あの頃のような時間を共有することは、僕ら二人には無いのだということを
お互いに確認した。

エミのいたずらっぽい眼差しはもう消え、少し寂しそうな眼差しに変わった。
それは僕が、そう期待したからそう見えたのかも知れないけど。
きっと今、僕も同じような眼差しをしているはずだ。

今、僕はそれなりに幸せに暮らしている。
でも、いまだに彼女をこんなに深く愛していることに、自分でも驚いてしまう。
10年以上たった今でも、こんな風に、彼女をリアルに夢で再現できるほどに。

エミは確かに僕の一部だったんだ。