資源ナショナリズムの元凶は米国(ぎんがみ風[ヤバイぞ日本])

 米国の夏のガソリン需要のピークを前に、原油価格は上昇を続け、7月31日に原油価格は78.2ドルとなり、さらに翌日8月1日には78.77ドルまで上がった。先物ではない市場価格の最高値である。ところがその後、原油価格は急落し69ドル台まで落ちている。

 なぜこのようなことが起こるのか。

 一般的には、中国やインドの需要拡大や、ロシアを含めたの資源ナショナリズムで、原油供給の先行き不安から原油が高騰していると説明される。しかしそれでは何故、急落するのかは説明ができない。

 原油価格を決めているのは米国市場である。従って、米国での状況が原油価格に大きく影響するのである。中国やインド、ロシアはここでは関係ないのだ。

 米国では最近、石油精製プラントのトラブルなどにより、精製があまり進まなかった。そのため、米国における原油在庫量が増えている。だが、最近になってから精製能力が回復。そのため、ややショート気味だったガソリン在庫も平年並みに戻っており、受給が逼迫する状況には無かったのである。

 こういう状況を見ると、決して原油価格が急上昇する状態ではなかったのに、実際には急上昇したのだ。そこには投機筋の動きがかかわっている。

 7月以降、NYMEX原油市場には「記録的」といわれるほどに投資筋が流入してきた。一説には「サブプライムローンがダメになったため、投資先がなくなり、目先で利益を出せる原油市場が目をつけられた」という。

 実際、米国では毎年夏にはガソリン需要が急増する。そこで、一気に買いを入れることで原油価格を引き上げ、利益確定後一斉に投機筋が引き上げた、というのだ。これで、原油価格の乱高下の理由が明らかとなる。

 実は、ここ数年の原油価格の高騰も投機筋の動きによって引き起こされたものである。米国のイラク侵攻による供給不安により原油価格が若干上がったところで、これを材料として、投機筋が動いたため、さらに大幅な高騰となったのだ。


 もう10年ほど前になるが「石油は既に一般消費財」という見方が流行ったことがある。原油価格が20ドル程度であまり大きな変化が無かったときだ。しかし、その後の価格高騰で「やはり石油は戦略物資」という見方が復活した。
 ちなみに、米国のイラク侵攻は原油価格を引き上げて、米国内の石油産業を儲けさせるのも目的の一つという話がある。もう一つは「イスラエルを守るため」であった。

 その真偽はともかくとして、原油価格が高騰したとたん、いわゆる「資源ナショナリズム」が頭をもたげて来た。特に顕著なのがロシアである。ロシアは意外にも様々な産業を持つ、工業国であるが、外貨を稼げる工業製品はほとんどない。自国内の需要を満たしているだけである。そこに原油の高騰が起こった。プーチンは実に切れるビジネスマンである。市況の高騰により、ロシアの資源が莫大な価値を持ちつつあるのに直ぐに気がついた。

 日本では悪名高いサハリン2プロジェクトだが、ロシアからすれば、あまりにもロシア側の条件が悪い。利益のほとんどをShell&日本連合に持っていかれてしまう。しかも設備コストも上昇しているが、その見積もりの変更をロシア側が知らされたのは、契約の翌週だったという。ロシアからすれば「騙された!」と感じてもしょうがない。

 そこにボタンの掛け違いがあったのがサハリン2プロジェクトである。
 プーチンは一方で、ユーコスを解体に追いやり、ガス輸出をガスプロムの専業とした。現在、エネルギー資源で主導権を取るのはガスプロムとロスネフチの2社。今後はガスプロムがより主導権を握っていくという見方が強い。

 資源を国家の基盤とするのがプーチンの戦略だ。そこではロシアは譲らないものの、その下流や他の分野でロシアは開放政策を推し進めている。

 資源ナショナリズムは、原油価格の高騰が無ければ起きなかった。資源開発のコストと販売による利益が合わなかったからだ。そして、価格を高騰させたのは米国である。従って世界の資源ナショナリズムを引き起こした原因は米国にあるのだ。


 さて、中国の場合は急速な経済成長に伴い、自国の資源では足りなくなると見るや、世界各地で資源の獲得に走った。それが「資源ナショナリズム」に見られているが、むしろこれは「エネルギー安定供給のため」という側面が強い。欧米のメジャーや投機筋のように利潤追求型とは全く違うし、ロシアのような国家の外貨収益手段としているわけでもない。しかも最近は国内で大規模の油ガス田が発見されていることや税制上の問題などもあり、CNPCなどは対外投資にやや慎重になりつつある。一方CNOOCは今、ケニアへの進出など、これまで出ていなかったところへの進出に積極的という。

 ただ、これを資源ナショナリズムというべきかどうか。大いに疑問がある。原油コモディティでなくなった以上、「マーケットから買ってくればよい」という考えは通用しなくなった。では安定供給のためにどうするか?。積極的に資源を確保していくしかないではないか。むしろ、資源獲得に必死にならない日本の方がおかしいのである。

 橋本政権の「行政改革」で石油公団がJOGMECとなった。日本唯一、石油開発のリスクマネーを供給できる部隊が力を失ったのである。小泉政権の「改革」では独立を保っていた国際協力銀行が新政策銀行に統合されることになった。海外プロジェクトのファイナンス面で豊富な知見を持ち、国内で唯一、輸出信用保証機能を持つ組織が独立性
を失おうとしている。

 「改革」の名の下に日本の形を壊しているのは自民党政権ではないか?